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なぜ台湾に学ばないのか?

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 1980年代日本の企業は、日の出の勢いで欧米企業に肉薄し、肩を並べ追い越してきた。P.F.ドラッカーは、彼の著書「ドラッカーの遺言」のなかで「隆盛を極めた日本の歴史こそが、20世紀の世界史そのものであり、現在の世界経済を生み出したのは日本である」と述べている。
 1989年ベルリンの壁の崩壊から1991年ソ連が解体される間に、日本のバブル経済も崩壊し、失われた20年の長期停滞期に突入した。以来デフレ経済が定着し、近年の急激な円高の影響も加味して、日本経済は20年の長きにわたり停滞から脱出することができずにいる。
 その原因は、少子高齢化社会の到来、米国式グローバル・スタンダードの導入、ハードウエアー主体の産業構造からソフト、サービス、コンテンツ産業への転換の遅れ、国内の工場の空洞化、政治と官僚の無作為などなど、経済学者、経済評論家やマスコミが指摘してきた。そして、苦境から脱出する解決策を欧米の先進事例や米国流経営学に求めてきたが、目覚しい成果が上がっていない。

桁違いの成長

 今日、日本が苦境に立たされているのは、台湾、中国と韓国との競争、とりわけ台湾との競争に勝てないからであるが、日本の企業人や政治家並びに官僚は、なぜ真摯に台湾から学ぼうとしないのか、筆者は不思議でならない。

 1990年から10年おきに日本と台湾企業の売上高のトップ10の合計を比較すると、日本は、バブル崩壊後売上高が縮小し、2010年は回復してきている。日本企業トップ10の約半数を占める総合商社を除いた製造業のトップ10で比較すると、日本の企業も成長しているが、台湾の成長力に比べると大きく劣っている(グラフ1)。
 また、1990年の売上高を1とした場合、台湾は2000年時点で4倍に、2010年には32.8倍と桁違いの成長を見せている。その間、日本の製造業の成長は2.2倍にすぎない(グラフ2)。その差は歴然である。
 バブル崩壊後10年間の日本と台湾企業の売上高を比較すると、1990年にはトップ20に入っていなかった新企業、即ち10年間で躍進した企業は、日本が4社に対し台湾は12社。台湾では6割の企業が躍進している。躍進企業は、日本が伸び悩んだ半導体とパソコン関連の分野で力強く成長している。台湾に出来てなぜ日本に出来なかったのか。

躍進の中心・ITRI

 筆者は光ディスク事業を通じて、台湾企業や政府、ビジネスマンと深い交流を持った。その経験から学んだのは、台湾政府が明確な産業振興の国策を堅持していることだ。その中心に、工業技術研究院(ITRI)の存在がある。政府は、産業育成に必要な人材育成と技術開発をITRIにオーダーし、新たな起業家を育成するインキュベーションセンターとしてITRIに隣接した新竹科学工業園区(工業団地)を構築し、国策に沿った起業家を支援するための手厚い制度を設けている。
 戦後台湾人は蒋介石の戒厳令下で長く生活してきたため、将来に不安を抱いた親たちは、苦学してでも子供たちを海外に留学させた。海外の大学を卒業した子供たちは現地企業に就職し、業界最先端の技術やビジネスの経験を手土産に、戒厳令が解除された台湾へ帰国し、ITRIのリーダーや政府のスタッフとして台湾の国作りに貢献した。
 ITRIは、新竹、台中、台南の3箇所に研究センターと工業団地を有し所員の数は5700名であるが、2万人を越える卒業生が産業界で活躍している。毎年10%の所員が民間へスピンアウトし新規事業の立ち上げに従事している。また、イノベーションを支援するためにITRIの中にヴェンチャーキャピタル会社を保有している。
 日本の国立研究所と異なり、ITRIの経営は、民間と同じである。経営哲学にOne to One Policyがあるが、これは政府から1の給料をもらったら研究者は自分の研究活動の成果で民間から1の報酬を得よ、というもので、企業に役立つ研究に所員がいかに取り組むよう求められているかが窺われる。企業から安定して報酬が得られるようになれば、ITRIから民間企業へ移動してゆく。組織の若返りと現場へのお役立ちの両方の効果がある経営である。
 また、新竹科学工業団地には、有名な工学部を持つ清華大学と交通大学があり、ITRIで起業を目指す人が新たな技術知識や経営学を学びたい場合は、これらの大学が希望者に対して夜学の講座を開設し支援をしている。
 このように、台湾は、政府の明確な産業政策の下、ITRIと産学官が良い連携を保って、目的の産業分野で世界ナンバーワン企業集団を構築するために結束して努力している。強い仲間意識と団結力並びに非常にアグレッシブなトップマネージャーの行動力が台湾の強みになっている。

技術をお金に変える力

 NPO法人技術立脚型経営研究会主催のMOTセミナーで講演した、中華経済研究院東京事務所長黄瑞耀博士は、日本と台湾の科学・技術ポテンシャルを比較し、日本は科学インフラ、ビジネスの洗練度とイノベーションの洗練度では大きく台湾をリードしているが、技術をお金に変える力で大きく台湾に後れを取っていると指摘した。また、台湾の政・官・財のリーダーの特徴として意思決定に必要な情報は、書物や部下からの報告書によらず、Face to Faceによる対話で自ら収集して判断している。顧客要求の調査もトップが直接市場へ行き自分の目で確かめている。その市場は、日欧米に限らず、新興国市場へも積極的に出かけてゆく。彼らのモットーは、“Open Minded”、“Action!Action!Action!”、“ Learning by Doing”である。今日の台湾経済を牽引しているトップ20社の多くは、ITRIから育った企業であり、ITRIが台湾のイノベーションの中核になっている。
 社員のモチベーションという面からも、台湾に学ぶべき点は多い。
 たいていの社員は自社株を持ち、自社株の値上がりを期待しているので、賃上げへの欲求は弱い。それよりも値上がりした自社株の売却で稼ごうという考えが強い。
 また、台湾のインセンティブを高める人事政策に、台湾の伝統的な風習の忘年会がある。全社員と家族を一堂に集め、トップから頑張った社員へ特別ボーナスとして自社株が支給されるほか、豪華商品が支給される。日本の社員に比べて台湾社員の労働意欲は非常に高い。

日本に求められるもの

 消費税率の引き上げと社会保障の充実も確かに重要なテーマではあるが、民間企業が力強く成長し、今より安い国際標準並みの企業課税でも国庫収入が潤沢になるような産業振興政策と国家ヴィジョンを政府が作り、これを産学官が連携して、台湾、中国、韓国などのアジア諸国より早く実現するチームに日本を改革することが、この国の閉塞感から脱却する緊急課題である。日本には、すでに台湾が手本にした組織があるにもかかわらず機能していない。産学官が現組織で知恵を絞れば、日本経済は良くなると筆者は信じている。
 また、企業のリーダーたちは、内向きの経営会議に終始せず、台湾人に負けない市場調査活動をリーダー自らが断行し、新興国の人たちの求める新製品、新サービスとシステムを台湾に負けないスピードで提供することである。
 こうした活動を、日本独自で行なうのでなく、良いところは素直に台湾から学び吸収し、お互いに協力できるところは提携して、グローバル市場の顧客に対応してゆくことが今後の日本の発展に繋がるだろう。特に中国への進出には、アジア諸国の中で最も親日的な台湾の人たちとの連携がこれから重要になる。台湾が出来るなら日本だって見方と行動を変えれば必ず出来るはずである。


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